健康情報
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いびきを軽く見ないで
生活習慣病になりやすい“弥生人顔”の人は注意

日中眠くなる人で、家族からいびきがひどいと言われる人は、寝ている間にも何度も呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」を疑ってみてはどうだろう。
 「一晩に十秒以上の無呼吸が三十回以上起こるか、睡眠一時間当たり無呼吸数が五回以上」が睡眠時無呼吸症候群の定義。子どもではへんとう肥大などで、大人は体重増加に伴って舌の奥やのどに脂肪が付くなどして、気道が狭まり、空気のとおりが悪くなる。あおむけで眠ると、重力で筋肉が垂れ下がり、気道部分がさらに狭まったりして、いびきや無呼吸を引き起こす。無呼吸症候群患者は健常者と比べ、高血圧になる可能性は二倍、心疾患は三倍、脳血管障害になると四倍とのデータもある。
 無呼吸症候群の対策法は、@気道確保のため横向きに寝るA減量するB筋肉を緩める作用がある酒や睡眠薬を控える―ことなどだ。
 無呼吸症候群になるのは太った人ばかりではないことも分かってきた。日本人は大きく分け、えらが張って四角い輪郭の“縄文人顔”と、面長であごが細い“弥生人顔”の二つがあるといわれるが、上越教育大保健管理センター所長の佐藤誠教授らによると、弥生人顔の人は、もともと気道が細いためか、わずかな体重増加だけでいびきをかくようになるケースが多いという。
 佐藤教授は「弥生人顔の人は、太らないこと。また、硬いものを食べないため、あごの発達が悪い人もいびきや無呼吸を起こしやすい」と指摘している。

平成14年11月13日 静岡新聞

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ジャガイモなどの加熱食品 発ガン性物質検出

 ジャガイモなどの食材を高温で加熱調理した加工食品から、動物実験により発ガン性が指摘されている物質アクリルアミドが、国立医薬品食品衛生研究所などの検査で検出されたことが30日分かった。海外で今春から問題化していたが、国内で市販されている食品のアクリルアミド含有が確認されたのは初めて。
 含まれる量は微量で食べても急性の健康被害の恐れはないが、長期的な健康への影響は分かっていない。厚生労働省は31日、薬事・食品衛生審議会毒性部会に検査データを提出し、今後、専門家の意見を聞きながら対応を検討する。 アクリルアミドはスウェーデンの研究者が4月、ポテトチップスやフライドポテトなどに含まれていることを発見、英国や米国などでも検出が相次いだ。このため、厚生労働省所管の国立医薬品食品衛生研究所と農水省所管の食品総合研究所が検査を実施。加工食品延べ百数十品目を調べた。
 アクリルアミドは、接着剤などの原料として工業利用されている化学物質。海外の研究では、食材を高温で長時間焼いたりした後、もともと含まれているアミノ酸の一種アスパラギンと、ブドウ糖などが反応してできるとみられている。

平成14年10月31日 静岡新聞

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日本の平均寿命 1位
〜WHOの02年報告 81.4歳 アフリカの2倍〜

【ジュネーブ共同】世界保健機構(WHO)は30日、2002年版の年次報告を発表、日本の平均寿命(01年)は81.4歳と前回に続き世界一の長寿国となった。日本は、障害や寝たきりの期間を差し引いた「健康寿命」でも73.6歳でトップだった。 日本を筆頭にスイスなど計6カ国の平均寿命が80.0歳以上に達した反面、アフリカ諸国はシエラレオネの34.2歳をはじめ7ヶ国が40.0歳以下と2倍以上の開きがあった。


★平均寿命ランキング★
トップ ワースト
@日本 
Aサンマリノ
Bモナコ
Cスイス
Dオーストラリア
Dスウェーデン

81.4歳
80.8歳
80.3歳
80.2歳
80.0歳
80.0歳

@シエラレオネ
Aアンゴラ
Bマラウイ
Cザンビア
Cジンバブエ
34.2歳
36.1歳
36.3歳
36.8歳
36.8歳
★健康寿命ランキング★
トップ ワースト
@日本
Aスイス
Bサンマリノ
Cスウェーデン
Dオーストラリア

73.6歳
72.8歳
72.2歳
71.8歳
71.6歳

@シエラレオネ
Aアンゴラ
Bマラウイ
Cザンビア
Dジンバブエ
26.5歳
28.7歳
29.8歳
30.9歳
31.3歳
平成14年10月31日 静岡新聞

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水道水と発ガンの可能性

 水道水を塩素処理するとクロロホルムを含む多くの有害性有機塩素化合物が生成する。しかし、それらの多くは短時間煮沸すると大気中に揮散したり、分解する。近年、MXと呼ばれるクロロフラノンが分離同定され注目されている。この化合物は酸性では閉環型構造をとり、カビ毒のアフラトキシンB1と同程度の強い変異原性を示し、2.3分煮沸させても揮散しにくい。そこで、われわれはMXを合成し、10-30ppmの濃度でラットに飲料水として経口投与したところ、胃の幽門部に異型的過形成(良性腫瘍)が誘発されることを確認した。
 また、既知発ガン物質のMNNGというニトロソ化合物を単独ではガンを発生しない少量をあらかじめラットに投与した後、10-30ppmの濃度のMXを飲料水として投与したところ、胃の基底部と幽門部に腺ガン(悪性腫瘍)が26-30%の割合で発生することを確認した。すなわち、MXが主として発ガンプロモーターとして作用することを明らかにした。
 その後の研究で水道原水に含まれる腐食物質のフミン酸やフルボ酸、一部食物ポリフェノールがMXの前駆体となることがわかった。また、MXが水道水だけでなくプールや河川水中にも存在することも確認した。さらに、欧米やアジアの国々の水道水からもMXが検出されている。
 わが国の水道水中にはMXが1-30ppbの濃度で存在するが、動物実験の結果を考え併せるとMXが直ちにヒトの健康に影響を及ぼすことはなかろう。しかし、MXと既知発ガン物質の焼きごげ物質などを共存させると相乗的に変異原性が増強する場合があることが分かった。最近、MXが紫外線で分解すること、血清を加えると変異原性が消失することを明らかにした。
 2003年には世界保健機構(WHO)がMXを水道水質基準に加えると聞いている。我々は、一日に一人当たり2リットルの飲料水を含め平均して430リットル消費している。それ故、水道水の安全性を維持するため、水道原水の有機物質を増やさないことが大切である。
  静岡県立大学教授 (食品栄養科学部食品衛生研究室) 木苗 直秀氏

(意見、問い合わせは下記へ直接どうぞ)
FAX 054-264-5528 E-mail kinae@smail.u-shizuoka-ken.ac.jp

平成14年10月27日 静岡新聞

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有害物質は取れず 空気清浄機に限界

 室内の受動喫煙対策は、禁煙により汚染物質を発生させないことが本筋。次善の策は煙やにおいを漏らさず、できる限り屋外へ排出する分煙だが、最近、分煙のためにビルなどで急速に普及している空気清浄機は有効なのだろうか。
 約200種類といわれるたばこの煙の中の有害物質は、大半が煙の構成成分の八割以上を占めるガス状物質に含まれる。しかし、空気清浄機ではガス状物質はほとんど除去できず、効果を発揮するのは、残りの粒子状物質の方だ。
 兵庫県喫煙問題研究会運営委員の山岡雅顕医師は「清浄機が受動喫煙対策の柱であるかのようなPRの仕方は明らかに間違っている」と話す。
 厚生労働省の「分煙効果判定基準策定検討会」が6月にまとめた報告書も、「最近、活性炭や光触媒などを利用して、ガス状物質の一部を除去できる機器も出回っているが、効果はまだ不十分」と指摘。ガス状物質の除去率を測定できる手法を確立することが重要だとしている。
 空気清浄機の限界を踏まえ、それでも使わざるを得ない時に大事なことは、吸煙能力の範囲内での喫煙。カウンターやテーブル型の機器の場合、ひじをつき、吸い込み口に向かって煙を吐き出すことが、煙を拡散させないコツだという。

静岡新聞 遊歩道〜吸わない人を守る〜より

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代替医療で予防や治療
健康食品などを利用  なるか“健康処世術”

ヨーグルト、アロエジュース、米ぬか・・・。テレビや雑誌で紹介されるたびに、店の棚が空っぽになるほど人気の健康食品ブーム。こんな中健康食品や免疫療法などを活用して予防、治療に当たる代替医療が注目されている。現代を生き抜く”健康処世術”になるのか?


 代替医療の研究で知られる日本補完・代替医療学会(本部・金沢市)によると、キノコの抽出物には前立腺ガンなどに抗がん作用があり、黒酢は中性脂肪を低下させる。イチョウの葉エキスは患者の脳の盛んにし痴ほう症を抑制するなど抑制するなど様々な効用がある。
 最近話題なのが、フランス・ボルドー地方に生息する「ピクノジェノール」。欧米ではよく知られており、子宮内膜症や月経困難症、糖尿病網膜症の治療としても使用される。抗酸化力はなんとビタミンCの20倍、ビタミンEの50倍といわれる。
 金沢大医学部の鈴木信孝講師(産婦人科医)と、恵寿総合病院(石川県七尾市)の小浜隆文産婦人科医はピクノジェノールを使って886人の患者に臨床予備検査を行った。その結果、子宮内膜症や月経痛、肩こり、椎間板ヘルニアなど、五割程度に改善がみられたという。

キノコ抽出物 → 抗がん作用
黒酢 → 中性脂肪を低下
イチョウ葉エキス → 脳の血流良く

 一方、免疫機能を高めて治療に当たるのは新潟市のあさひ医王クリニックの上野紘郁院長。米ぬか成分の一部を培養したエキス「アラビノキシラン」に注目。一回1〜2グラムを一日に三回服用してもらい、免疫細胞を活性化させる。西洋医学と併用し、ガンなど治療効果を上げているという。
 こうした動きに日本では「学問的立証がない」「ブームに便乗した悪質な商法」など、批判的な向きも多い。
 だが、米国では1992年、世界的な最先端医学研究施設の一つとして、米国立衛生研究所内に代替医療事務局を設立。年間予算は約五千万ドルに上る。ハーバード、コロンビア、スタンフォード大学など十箇所に研究センターが設置されるなど、関心が高い。
 厚生労働省は「使うのは自由。ただ、医薬品と違って科学的に評価されていない」とやや冷ややかだが、生活習慣病などは年々増えており、打つ手がないのが現状。 
 坂口力厚労相は「これからは予防が大事だ。代替医療に関する米国の事例を学びたい」と意欲的に語っている。

代替医療・・・・針灸、指圧、気功などの中国医学、インド療法、リンパ球療法などの免疫療法、健康食品や薬効食品を使うハーブ療法、ビタミン療法、食事療法、温泉を活用した自然療法などがある。補完医療とも呼ばれる。金沢大が「補完・代替医療」の医学講座を開設しているが、ほとんどの大学医学部にはまだ専門講座がない。

平成14年7月8日 静岡新聞

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清涼飲料水の飲みすぎは危険
極端な糖尿病起こす  急激に悪化、こん睡も

気付かぬうちに高血糖になり、口やのどが渇く。清涼飲料水をがぶ飲みして血糖値が急激に上がる。重傷なら、こん睡に陥り、急性膵炎(すいえん)や脳梗塞まで起こす。こんな患者が増えている。ペットボトル症候群とも呼ばれているが、糖分を含む飲料を大量に飲めば容器はなんでも起こる。清涼飲料水ケトーシスが正しい病名だ。特徴と予防策を探った。

 この症状は、ペットボトルと自販機が普及し、大量の清涼飲料水を飲みやすくなった1980年代半ばから、報告されだした。朝日生命糖尿病研究所の野田光彦主任研究員は「一年中起きているが、夏に多い印象はある。今ではそれほど珍しくない」と話す。
 虎ノ門病院の山下滋雄医師と野田さんらは、96年度から5年間に東大病院糖尿病・代謝内科(門脇孝・助教授)に入院した清涼飲料水ケトーシスの19人を分析した。特に最後の一年の入院患者は9人もいた。
 患者は16歳から60歳まで平均39歳。一人が女性で残りは男性だった。女性はもともと肥満や糖尿病が少ないのに加え、がぶ飲みしにくい雰囲気が、予防に働いているようだ。
 入院時の血糖値は正常値の6倍にも上がっていた。大半の人が過去に肥満歴があり、3人に2人は脱水も重なり、10キログラム前後の急激な体重減少を経験していた。
 直前の清涼飲料水摂取は一日平均約2リットル。5リットル飲んでいた人もいた。口が渇いて大量に飲み続ける悪循環に陥り、症状を1.2ヵ月で急激に悪化させていた。
 飲み物に糖分が含まれていれば、発症する。コーヒ―牛乳や果汁、ビールなども糖分が入っており、原因になりうる。大半の人が糖尿病に気づかず、「口が渇くのは高血糖のせい」と知らないまま、渇きを癒そうとがぶ飲みしていた。意識混濁を起こして、髄膜炎が疑われ、救急車で運ばれ、検査で血糖値が異常に高いことが分かって、東大病院に転送された男性のケースもあった。
 祖父母や両親、兄弟などの家族に糖尿病の患者がいた人も半数を超え、糖尿病になりやすい遺伝素因の関与がうかがえた。
 「やたらのどが渇くようになっても、カロリーのないお茶などを飲めばよい。尿量の増加、急激なやせが三兆候だ早めに受信してほしい」と野田さんは指摘する。

 治療はインスリン注射により血糖値を下げる。回復まで通常一ヶ月程度。東大病院で治療に当たった野田さんは「これでほぼもとの状態に戻り、血統をコントロールできるようになる」。退院半年後の調査で患者は薬も必要なくなり、食事療法と運動療法だけで生活できるようになっていた。
 清涼飲料水ケトーシスは、もともとインスリン分泌が少ないアジア人や黒人に多い。白人での報告はほとんどない。野田さんらは「日本人は飢餓に強い体質を育てた結果、高脂肪食に弱く、糖尿病になりやすい。その宿命かもしれない」とみる。

清涼飲料水ケトーシスの特徴

●青年期から中年にかけての男性に多い
●発症時に肥満があるが肥満歴を有する人が大半
●血縁者に糖尿病患者がいるケースが半分以上
●患者に病識がないか乏しい
●清涼飲料水を大量に摂取する(1日平均約2リットル)

 

平成14年6月24日 静岡新聞

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広がる朝食の乱れ 独身男性に多い欠食
増える洋食型 生活習慣病招く恐れも

 日本人の朝食は20世紀後半にかけて大きく変わった。ファーストフードの普及や夜型の生活で食べ方が変わり、食事の内容も西欧型の高脂肪食が増えた。このほど食糧庁が医学や栄養学の専門家に依頼した朝食の研究で、健康への影響があらためて浮き彫りになった。

 「朝食の欠食による食生活の乱れ、脂肪の取りすぎ、運動不足が日本人の生活習慣病増加の大きな原因」と、研究をまとめた香川靖雄・女子栄養大副学長は指摘する。厚生労働省の国民栄養調査(2000年)によると、朝食抜きは男性10.7%、女性5.8%、全体では8.1%で十二人に一人の割合だ。
 欠食率は20代男性が最も多く30.5%、30代男性、20代女性が20%-16%台で続く。やはり単身者に朝食抜きが多く、10代、20代の男性一人世帯では50-51%達している。
 同省は1970年から欠食率を調べており、女性はほぼ横ばい、男性は増え続けていた。このため同省は健康増進のための数値目標を定めた2000年の「健康日本21」で2010年までに朝食欠食率を20代男性でも15%以下にすることを目指している。

夜型生活が影響

 98、99年には欠食率が全体で減り、不況の影響などが指摘されていたが、2000年には再び増加に転じてしまい、目標達成は難しそうだ。
 八倉巻和子・大妻女子大教授(栄養学)は、生活が夜型になったことが、朝食の乱れを招いたと指摘している。昼食の時間はほとんど正午から午後一時頃で変わっていない。しかし、夕食の時間帯が深夜まで広がり、間食も増えて朝食に影響している。
 朝食の「粗食化」もある。八倉巻教授らの女子大生を対象にした調査では、朝食抜きは3%台だが、、おにぎりやパンだけの単品が四割近く、飲み物やお菓子だけもいて、朝食に主食とおかずをきちんと食べている学生は五割弱しかいなかった。
 門脇孝・東京大助教授(代謝内科)は、朝食の欠食や食事の西欧化が、糖尿病増加の背景にあると分析する。

減るコメ消費量

朝食がごはんとみそ汁を中心にした和食の場合、多くの栄養素をバランスがよくとれ一日の食事のリズムもできる。一方、もともとインスリンの分泌の少ない日本人の場合、西欧型の高脂肪食を続けると糖尿病になりやすい。
 この50年間、日本人の一日のエネルギー摂取量はほとんど変わらないが、うち脂肪の割合が6%から28%程度、四倍以上に増加した。
 食糧庁によると、この間、一人あたりのコメ消費量が減りつづけ、糖尿病患者は増えつづけている。
 門脇助教授は「50年前の低脂肪食に戻すことは非現実的だが、洋食中心に偏りがちな食習慣を少しずつ和食に戻していくことが必要だ」としている。

平成14年6月17日 静岡新聞

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環境ホルモン物質 親通じ神経系に影響

 プラスチックの原料などに使われ、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)の疑いがあるビスフェノールA(BPA)を、妊娠中や授乳期のマウスに与えると、園子にも薬物依存症や行動異常が起きやすくなるとする実験結果を、厚生労働省の研究班(主任研究者、白井智之・名古屋市立大医学部教授)がまとめ、17日、同省の検討会で報告した。
 BPAをめぐっては、子どものマウスの脳へ直接投与すると「多動」になるとの実験データがあるが、母親を通じても脳神経系に影響が出ることを確認したのは初めて。
 研究班の鈴木勉・星薬科大教授(薬品毒性学)は「妊娠、授乳期の子どもへの影響は一生続く可能性がある。今後、別の動物や人間でも検討していくことが必要だろう」と話している。
平成14年6月18日 静岡新聞

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妊娠前から葉酸の摂取を
胎児の成長に不可欠   二分脊椎や無脳症など神経管欠損症を予防

 胎児の時に神経管がうまく形成されず、下半身麻痺などを起こす二分脊椎や無脳症の神経管欠損症。重い神経系の異常だが、葉酸の摂取で約70%予防することが、欧米の研究で分かってきた。

 厚生労働省は一昨年末、妊娠可能な若い女性に摂取を呼び掛けた。母子健康手帳に今春、葉酸摂取の勧めが盛り込まれた。同省の二分脊椎研究班(班長・阿部俊昭慈恵医大教授)も、葉酸の効果などを確かめた。
 神経管欠損症などの先天異常を防ぐため、欧米各国では1990年代に葉酸摂取を勧告した。米国では98年から、パンなどに葉酸添加を義務付けたほどだ。こうした対策で神経管欠損症は減ってきた。しかし、日本だけはあまり減らず、発症率が今や世界で最も高い。阿部教授は「これはショッキングなことだ。若い女性達に、葉酸の摂取をもっと促すなど、国を挙げて取り組むべきだ」と話す。
 葉酸は体内に蓄積しないので、毎日摂取する必要がある。胎児の神経管が形成されるのは妊娠初期の4週目。妊娠に気づいた後では遅い。妊娠可能な女性の所要量は一日0.4ミリグラム。
 日本人の葉酸欠乏は深刻だ。研究班の調査では、若い女性は一日0.1ミリグラムしか葉酸をとっておらず、血液中の値も必要な量の四分の一にとどまっていた。
 葉酸はビタミンBの一種で、野菜や果実に多い。加熱などの調理で失われるほか、体内での吸収率も約50%と低い。所要量を食事だけで取るのはむずかしく、錠剤の摂取がより確実。一錠10円ほどで、安全性も高い。
 阿部教授らは、動物実験で葉酸の効果を実証した。@高温で症状を誘発させたマウスA遺伝因子で発症しやすいマウス― の妊娠初期に葉酸を与えたら、いずれも二分脊椎は減っていた。
 葉酸は、神経管が胎児で形成される際に重要な役割を果たす遺伝子群の働きを促進していることも見つけた。神経管欠損の胎児の大半は自然に流産している。このため、葉酸は流産防止に寄与するかもしれない。
 研究班は、神経管欠損症の医療ネットワーク作りにも取り組んでいる。出生前に画像診断でき、生まれた直後に専門の外科医が手術すれば救命率は高まる。
 小児科や脳外科、泌尿器科、整形外科など多様な分野がかかわる二分脊椎外来も昨秋、東京の慈恵医大病院に本格的に開設された。研究班は情報公開にも熱心だ。ホームページ(http://www.nibunsekitsui.jp/)を開き、最新の診断や治療法を解説し、各地の専門病院も紹介している。
 阿部教授は「葉酸は貧血や動脈硬化など予防にも役立つのに、摂取は少ない。その意義を学校で教える必要がある」と提言する。

平成14年5月9日 静岡新聞

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やせた男性の方が死亡率が高い?
厚生労働省研究班が調査 肥満対策一辺倒に再考迫る

 日本人の中年男女は、標準的な体重より太っていてもやせていても死亡率が上がるが、男性は肥満よりやせのほうが集団の死亡率上昇の大きな要因になる―。厚生労働省研究班(主任研究者、津金昌一郎国立がんセンター臨床疫学研究所部長)が全国の約41000人を対象とした追跡調査が、このほど発行された国際肥満雑誌に掲載された。体重の指標であるBMI(体格指数)でみた場合、男性は標準的とされる値より少し高めの方が死亡率が低いことも判明。肥満への注意だけに傾きがちな健康対策に、再考を迫る結果となった。
 BMIは、体重(キロ)を身長(メートル)の二乗で割った値。体重70キロで身長1.7メートルならBMIは24.2となる。標準は22で、25以上が肥満とされる。
 岩手・秋田・長野・沖縄県内の4.50代の男女に身長や体重、健康状態を尋ねるアンケートを1990年に実施。以後十年間追跡調査した。
 男性では、BMIが23〜24.9の人の死亡率が最も低かった。この人たちを基準にすると、21〜22.9の人は1.3倍、19〜20.9の人では1.6倍と、望ましいとされてきたBMI値でも死亡率は高くなった。19歳未満では、2.3倍と2倍を超えた。太る方でも25〜26.9の人は1.1倍、27〜29.9で1.4倍と死亡率は徐々に高まったが、やせに比べると傾向は緩やかだった。
平成14年5月9日 静岡新聞

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緑茶で白血病発症予防
鹿児島大臨床試験 原因ウイルス減少

 緑茶に含まれるポリフェノールが、西南日本に多い血液のがん、成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルス(HTLV1)の量を感染者の体内で減少させる効果があることを、鹿児島大医学部の園田俊郎教授(ウイルス学)らの研究グループが突き止めた。
 実際の感染者を対象にした臨床実験の結果で、同グループは「緑茶の成分がATLの発症予防につながることが明らかになった」としている。
 11日から鹿児島市で開かれる日本がん分子疫学会で発表する。研究グループによると、試験は鹿児島県在住の未発症の感染者101人を、緑茶10杯分の濃縮カプセルを毎日6ヶ月間服用するグループと、全く服用しないグループとに分けて比較した。服用しないグループでは明らかな変化がなかったのに対し、服用したグループではほとんどの人が減少していた。
平成14年5月9日 静岡新聞

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緑茶で骨粗鬆症予防
中部大グループ 渋味に破壊止める効果

 緑茶煮含まれる渋味成分の一種、エピガロカテキンガレート(EGCG)が、骨粗鬆症の原因となる破骨細胞の細胞死を引き起こすことを、中部大応用生物学部(愛知県春日井市)の永井和夫教授を中心とする研究グループが、26日までに突き止めた。
 骨粗鬆症は、骨を吸収する破骨細胞と新たに形成する骨芽細胞のバランスが崩れて発症する病気で、国内の患者は約一千万人とされる。EGCGを使った治療薬やサプリメント(栄養補助食品)が開発されれば骨粗鬆症の抑制や予防に役立ちそうだ。
 永井教授らは、マウスから採取した大腿(たい)骨の骨髄細胞と頭がい骨の骨芽細胞をまぜて培養、破骨細胞などを育て、EGCGを注入して24時間後の変化を観察した。その結果、破骨細胞は全滅、骨芽細胞に大きな変化はみられなかった。 EGCGの作用で生じる鉄イオンと、破骨細胞の活動で生じる過酸化水素が反応してヒドロキシルラジカルという活性酸素が発生、破骨細胞を死滅させたとみられる。
 永井教授は「破骨細胞と同じように活発に活動するがん細胞にも、EGCGは有効なのではないか」と話している。
平成14年4月27日 静岡新聞

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カテキン類の科学的特質

 カテキン類とは植物性食品に含まれるポリフェノールの一種で、特に茶に多く含まれる渋み成分であり、通所9宇野煎茶100ミリリットル中に少なくとも100ミリグラム以上含まれている。カテキン類は様々な機能が報告されており、本シリーズでも今後数回にわたって茶あるいはカテキン類に関連したトピックが掲載される予定である。今回はカテキン類の科学的特質について触れたい。
 カテキン類は、がん細胞の増殖制御、抗酸化性、抗菌性、抗ウイルス性、におい消し、血中コレステロール濃度の上昇抑制など、数え上げたらきりがないほど多種類の機能を持っている(ポリフェノールの抗酸化性に関しては第2回の本欄を参照されたい。)それらに共通するのは、まず対象となるものに「くっつく」ということである。多くの化学物質は水に溶けやすいものと油に溶けやすいものどちらかに分類される。
 それに対し、カテキン類は茶の成分として水(湯)に高濃度に溶けているにもかかわらず、細胞膜やコレステロールなどの脂質に対しても高い親和性、つまりくっつきやすい性質を示す。いろいろなカテキン類について調べたところ、エピカテキンガレート(ECg)トエピガロカテキンガレート(EGCg)など「〜ガレート」という物質名を持つものにその傾向が強く見られた。図はEGCg一分子の構造を立体的に示したものである。
 周りの色の濃い部分が水に対する親和性が強く、中央の白い部分が脂質に対する親和性が高いと考えられる。この白い部分が「〜ガレート」という名称をもつカテキン類にしか存在しない。細胞に作用するときは、この白い部分を先頭にして脂質二重層でできている細胞膜の内部に浅くもぐりこみ、周りの親水性の部分をその外側に残しているようなモデルが考えられる。
 カテキン類がさまざまな酵素を阻害することも知られている。これも蛋白質への一種の吸着現象と考えられるが、資質二重層への作用と同じかどうかは今後の研究課題である。
(意見、問い合わせは下記へ直接どうぞ) 
        FAX 054-264-5551  E−mail nakayatu@smail.u-shizuoka-ken.ac.jp
平成14年4月9日 静岡新聞 健康を科学するより

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痴呆予防に短い昼寝
アルツハイマー病で確認

 毎日30分以内の短い昼寝を習慣的に取る高齢者は痴ほう症のアルツハイマー病になる確立が低い。こんな興味深い実証データを、朝田隆・筑波大教授(精神医学)らが米国の専門誌に報告している。生活習慣による痴呆予防のひとつの手がかりになりそうだ。
 研究グループは、国立精神・神経センター武蔵病院(東京都小平市)で、アルツハイマー病と診断された337人(発症の平均年齢69歳)について、発症の10〜5年前に、昼寝を週3日以上習慣的に取っていたかどうか調べた。対照として、患者の妻や夫で、アルツハイマー病でない恵260人も調査した。
 アルツハイマー病になる相対危険度(オッズ比)は一を基準とすると、毎日30分以内の昼寝をしていた人で、0.16とはっきり低かった。30〜60分の習慣的昼寝の人も、0.40にとどまっていた。しかし、60分以上の昼寝をしていた人は2.07まで上がり、長過ぎる昼寝は良くないことをうかがわせた。アルツハイマー病になりやすい遺伝子アポリポタンパク質(APOE)の特定のタイプの人でも、こうした昼寝の効果が著しかった。
 昼寝の効能の仕組みはまだ分かっていない。昼寝で睡眠の生理機能やその人の日収リズムが修飾されている可能性があるという。
平成14年4月9日 静岡新聞 医療ネット21より

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受動喫煙でシックビル症
職場の実態調査で確認 分煙徹底→依存度が低下

 他人が吸うタバコの煙にさらされる受動喫煙で、不定愁訴や頭痛などのシックビル症候群になりやすい。こんな危険が、タバコの煙が立ち込める職場にあることを、産業医大臨床疫学教室(吉村健清教授)の溝上哲也講師らが確かめた。分煙の徹底は職場の健康を守るのに欠かせない。
 周りの大気中に漂うタバコの煙を「環境たばこ煙」と呼ぶ。本人は喫煙しないのに、煙にさらされる受動喫煙は、家庭の主婦や子供、胎児への健康被害を指摘した研究が先行、職場での調査研究は遅れていた。溝上講師らは、室内で主に働く市役所職員約千三百人について分析した。このうち、タバコを吸わない約900人では、受動喫煙の時間が長い人ほど、シックビル症候群が増えていた。

有害な副流煙
 現代のビルは締め切りで気密性が高く、この症状がおきやすい。環境たばこ煙にさらされる時間が一時間未満の人のシックビル症候群を一とすると、1-4時間で2.4、4時間以上で2.7に上がっていた。  たばこの煙になじんだ喫煙者では、シックビル症候群が、1.3にとどまっていた。溝上講師は「喫煙者の環境たばこ煙への感受性は鈍い」とみる。毎月30時間以上残業する人や仕事の負担が重いと感じる人ほど、シックビル症候群になりやすい。

 また、喫煙対策が異なる職場を比べた。禁煙タイムを設定するだけで対策が緩やかな職場に比べて、喫煙場所を事務室外に設けた職場では、目や鼻、のどなどの刺激症状が減っていた。
 分煙を徹底した職場ほど、喫煙者も含めて対策への賛成者が多く、喫煙ルールのイライラ感や数量も減る効果があった。「分煙徹底はたばこ依存度を下げるらしい」と溝上講師。
 たばこ煙には、発ガンなどの有害物質が数百種類も含まれる。環境たばこ煙歯主として先端から流れ出る副流煙によるが、一本当たりの量は、喫煙者が吸い込む主流煙よりも副流煙が2〜3倍も多い。有害物質の放出は副流煙がさらに多量で、粘膜kへの刺激が強い。

注目の煙害訴訟
 たばこ煙は心臓病などの危険も高める。溝上講師らは、職場での受動喫煙により、血液中の善玉コレステロール、HDLが下がる傾向も見つけた。環境たばこ煙がHDLを引き下げて、心血管疾患を起こしやすくする可能性がうかがえた。 旧労働省が1996年、職場の喫煙対策ガイドラインを出し、分煙は広がってきたが、強制力でなく、公共の場に比べ遅れている。
 
 分煙を求めて解雇されたとして、たばこ煙アレルギーの女性(31)が昨年末、東京の玩具製造会社に対し解雇無効確認などを求める訴訟を東京地裁に起こした。注目の裁判になっている。
 東京都文京区の日本医師会館は昨年、全館禁煙になった。坪井栄孝会長は三月はじめに開いた市民フォーラム「子どもとたばこ」で「たばこの害を知らせるのは医師会の勤めだ。全館禁煙は当然だ」と語った。

平成14年3月18日 静岡新聞

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レモンに抗酸化作用
ポリフェノールが有効

酸っぱいレモンに強い抗酸化作用があり、それを担っているのはビタミンCよりポリフェノール類であることを、お茶の水女子大の近藤和雄教授と学院生の桜井智香さんらが突き止め、東京でこのほど開かれたセミナーで発表した。
 「抗酸化作用が強いポリフェノールを含んで健康に良いと言われている赤ワインやお茶、ココアなどに、レモンが仲間入りした」と近藤教授は話している。

抗酸化物質は体内で有害な活性酸素を減らして、動脈硬化などを制御する働きがあり「第七の栄養素」として注目されている。研究グループは、平均38歳の男性12人にレモン果汁を飲んでもらって、その血液を採取して測った。
 約500ミリリットルのレモン果汁を飲んでから一時間後には、血液中の抗酸化力がはっきりと上がっていた。レモンに多いビタミンCの溶液を飲んでも、ほとんど変化しなかった。このため、ビタミンCとは別の物質が関与しているとみた。 血液を採取して試験管内で抗酸化力を測った。無添加に比べ、レモン果汁を加えると約三倍に上がった。レモン果汁中のポリフェノール類による上昇はそれとほぼ同じで、ビタミンCの1.7倍より強かった。ポリフェノール類の中でも、エリオシトリンと呼ばれるレモン独特の物質が強く作用しているらしい。

 レモンは紀元前から中東地方で栽培されていて、ローマ帝国など欧州に広がった。
 近藤教授は、「文明が生き延びるには抗酸化作用の強い食品が必要だった。それが、東アジアではお茶や大豆とすれば、中東から地中海沿岸では、レモンと赤ワインではないか」と新しい食品文明論を提唱している。

平成14年3月9日 静岡新聞 医療ネット21より

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生命科学の最先端
ビタミンCが白内障を防止

白内障は加齢とともに発症する病気である。統計では、白内障(初期変化を含む)の有病率は五十代で52%、六十代で68%、七十代で81%、八十代以上で98%とかなり高率だ。白内障が進行して視力低下が進むと手術を受けなければならないが、白内障の手術を受ける人は、日本で年間約80万人いる。白内障は老化現象のひとつと考えられているが、これには外部からの紫外線(中でも短波長であるUV−B)の影響が大きいといわれている。

 紫外線の多い赤道部の地域の人に白内障が多いことや、屋外で働く時間の多い漁師にも白内障が多いことも報告されている。紫外線から発生する活性酸素が白内障を起こすということが多くの研究でも明らかにされている。一生涯、眼は光(紫外線)が当たることが多いので、これに対する防御機構もある。特に角膜と水晶体の間にある房水と呼ばれるところにはビタミンCが血液中よりも約30〜40倍多くあることが分かっている。興味あることには、このビタミンCは、人やサルのような昼行性の動物では多いのに、ネズミ、猫などの夜行性の動物では少ないことが報告されている。このビタミンCは活性酸素を消去する働きがあるので、光から水晶体を保護する役割をしていると考えられている。水晶体中においグルタチオンも同様の作用がある。

 われわれの研究分野では、紫外線のUV−Bをウサギの眼に20分間照射を一回させると二、三週間、この房水中のビタミンCを顕著に低下させることを見出している。これまで紫外線が水晶体に作用して白内障を作ることがいわれていたが、この研究で水晶体の周りにあって活性酸素を消去する役目をしているビタミンCが紫外線により減少することが白内障の形成に関与して可能性が明らかにされたのだ。

浜松医科大学教授 (光量子医学研究センター)平光 忠久 (意見、問い合わせはFAX053-435-2394まで直接どうぞ)

平成14年3月2日 静岡新聞「生命科学の最先端」 より

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環境ホルモンを無害化 焼津のエコテック特許共同出願

焼津市小浜のエコテックはこのほど、岡山理科大の浜田博喜教授との共同研究で、内分泌かく乱物質(環境ホルモン)と疑われる化学物質「ビスフェノールA」をユーカリの木の細胞を使って無害化することに成功し、特許を共同出願した。ビスフェノールAはプラスチックや塗料などに使用されるが、精子を減少させる恐れが指摘されている物質。同社と浜田教授は、ユーカリの木の細胞を粒状加工した。実験ではこの粒をビスフェノールAの水溶液に入れると、環境ホルモン活性を失ったという。同社は今後、河川や湖沼などへの投入向けに製品化する考え。
平成14年2月19日 静岡新聞

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潜在患者は500万人?たばこ原因の閉塞性肺疾患
認知度のアップが急務

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、2020年には世界の死亡原因の第三位になると予想されている重大な病気だ。有害物質やガスの吸入で肺や気管支に異常な炎症反応が起こり、肺機能の低下が長年ゆっくりと進行して呼吸困難を起こす。最大の原因は喫煙とされる。国内の潜在患者は500万人を越えるとみられているが、実際にCOPDと診断され、適切な治療を受けている患者は少ないという。専門医は「医師も含め、国民に十分な知識が浸透していない。認知度のアップが急務だ」と指摘する。

 大ざっぱに言えば、COPDは従来、肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれてきたものの総称だ。肺気腫では、気管支の先にぶどうの房のように付いている肺胞の隔壁が壊される。肺の組織はスカスカになり、肺全体の弾力性が低下、息を吐こうとしても肺の中に空気が残り、新しい空気をうまく吸えない。

 慢性気管支炎では気管支に炎症やむくみが生じ、空気の通り道が狭くなる。いずれの場合も、放置すれば呼吸不全や心不全を招いて死の危険がある。原因の90%は喫煙で、患者はヘビースモーカーの中高年男性に多い。「喫煙者のうちCOPDを発祥するのは15〜20%。喫煙に何らかの遺伝要因が絡んで初めて病気が起きる」と、厚生労働省COPD研究班の主任研究者、松瀬健・横浜市大教授(呼吸器内科)は解説する。

 これまでに「α1アンチトリプシン」というたんぱく質をつくる遺伝子の異常が発症につながることが分かっていた。だが、これだけではCOPDの全体像は説明できず、複数の遺伝子の関与が疑われている。

 問題はこうした病変が進行性で、発症すると元の状態には戻らないこと。それだけに、早く症状に気付き、禁煙の徹底と治療で悪化を遅らせることが重要だが、「大半の患者はせきやたんの初期症状では受診しない。体を動かした際の息切れが出始めて、受診したときには、既に肺機能がかなり低下している。」と松瀬教授。

 認識の低い医師が高齢者の息切れを「年齢のせい」で済ませたり、肺炎やぜんそくなどと誤認したりするケースもある。正確な診断には、スパイロメーターという機械のの肺機能検査が極めて有効だ。しかし、厚労相研究班が、ある地域で内科の病院・診療所で調べたところ、機械の普及率はわずか42%。診断と治療の方法を示した日本呼吸器学会のガイドラインの認知度も36%にとどまるなど、課題は多い。

 喫煙率が高い日本は、高齢化で患者が増え続ける恐れがある。松瀬教授は「健診の場にスパイロメーターを普及させ、喫煙者だけでも検査すれば早期発見につながる。遺伝子解析が進めば、COPDになりやすい人を探し、禁煙指導で発症を予防することも可能になる」と話している。

平成14年2月16日 静岡新聞

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喫煙男性の死亡 22%も予防可能
4万人を10年間追跡

喫煙する人は、吸わない人に比べ、ガンや循環器疾患による死亡率が男性で1.6倍、女性で1.9倍高く、たばこを吸わなければ男性死亡の5人に1人は防げた、との研究結果を厚生労働省研究班(主任研究者、津金昌一郎・国立がんセンター研究所部長)がまとめ、このほど発行された日本癌(がん)学会誌に発表した。 全国四地域の4万人以上を10年間にわたって追跡したもので、これだけの大規模な研究が同センターが1960年代から80年にかけて行って以来。今回は飲酒など喫煙以外の生活習慣の影響などを区別した科学的厳密さが調査の特徴で、喫煙そのものが健康に非常に悪いことをあらためて明確にした。

 研究班は90年から92年にかけ、秋田、岩手、長野、沖縄の男女で、がんや循環器系の病気にかかったことがない40〜50代の計約4100人を対象に、喫煙などの生活習慣に関するアンケートに答えてもらった。以後十年間の健康状況を追跡したところ、男性1014人、女性500人の死亡が確認された。 喫煙の状況別に分析すると、たばこを吸う人の死亡率は、吸ったことのない人と比べて、男性1.6倍、女性1.9倍それぞれ高い。病気別では、がんが男性1.6倍、女性1.8倍、心臓病や脳卒中などの循環器疾患が男性1.4倍、女性2.7倍となった。

 たばこをやめたという人の死亡率は、女性の循環器疾患を除き、もともと吸わない人と同程度で、禁煙の有効性が示された。喫煙者が一人もいなかったら10年間の死亡がどれくらい予防できたかを推定したところ、男性の22%、女性の5%が、それぞれ予防可能だった。 津金部長は「禁煙した人の死亡の危険性が、吸ったことのない人と同レベルまで下がる時間は、病気により違うが、一刻も早くやめることの効果は明白。決して『もう遅い』ことはない。」と話している。

喫煙対策に有力な根拠

(解説)

 喫煙がさまざまな病気の引き金になり、死亡率を高める事実は、過去の多くの研究結果を元に当たり前のように言われている。だが、「喫煙者は飲酒量も多い」「強いストレスを受けている人が喫煙しやすい」など、他の生活習慣の影響をきちんと除いていないとの批判も一部にあり、こうした指摘が喫煙対策消極論に使われてきたのも事実だ。

 このため、今回は科学的信頼性を高めるため「コホート研究」を採用した。これは、ある集団に対しあらかじめ病気の要因の有無を調査した後、集団を長期間追跡し、病気発生と関連を調査する手法。膨大な手間や時間が必要な反面、結果には強い説得力があり、先進国で最も遅れているといわれる日本の喫煙対策を進める有力な根拠となるだろう。質的には、国際的にも高水準な今回の研究だが、不十分な点もある。調査では、開始時点の喫煙本数が十年後も続いていると仮定して死亡率を算出したが、開始5年目に行った調査では、喫煙を開始した人よりもやめた人のほうが多く、死亡率などの評価に影響を与えている可能性もある。

 だが、やめた人の影響は、結果的には喫煙している人の死亡率を下げる方向に働くことから、喫煙者の新の死亡率が今回の結果より高いことはあっても、低いことはなさそうだ。

平成14年2月7日 静岡新聞

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羊も危険部分焼却
狂牛病対策  人への感染予防徹底

狂牛病(牛海綿状脳症)対策の一環として、厚生労働省は12日までに、羊についても食肉処理時に脳や脊髄(せきずい)などの危険部分を除去、焼却する方針を固めた。同省は「危険性は証明されていないが、人への感染防止徹底のための予防措置」としている。

 狂牛病と同様に脳がスポンジ状になる羊の病気、スクレイピーは人には感染しないとされる。一方、狂牛病に感染した牛の肉骨粉を羊が食べた場合などに、狂牛病になるかどうかは解明されていない。

 狂牛病が人に感染すると難病の変異性クロイフェルト・ヤコブ病になると指摘されており、同省の担当者は「羊が狂牛病になる可能性が否定できない以上、人への感染防止徹底のためには羊への対策も必要だ」としている。

 牛の危険部分は、食肉処理場での処理時に除去、焼却することが既に義務付けられている。

平成14年1月13日 静岡新聞

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