慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、2020年には世界の死亡原因の第三位になると予想されている重大な病気だ。有害物質やガスの吸入で肺や気管支に異常な炎症反応が起こり、肺機能の低下が長年ゆっくりと進行して呼吸困難を起こす。最大の原因は喫煙とされる。国内の潜在患者は500万人を越えるとみられているが、実際にCOPDと診断され、適切な治療を受けている患者は少ないという。専門医は「医師も含め、国民に十分な知識が浸透していない。認知度のアップが急務だ」と指摘する。
大ざっぱに言えば、COPDは従来、肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれてきたものの総称だ。肺気腫では、気管支の先にぶどうの房のように付いている肺胞の隔壁が壊される。肺の組織はスカスカになり、肺全体の弾力性が低下、息を吐こうとしても肺の中に空気が残り、新しい空気をうまく吸えない。
慢性気管支炎では気管支に炎症やむくみが生じ、空気の通り道が狭くなる。いずれの場合も、放置すれば呼吸不全や心不全を招いて死の危険がある。原因の90%は喫煙で、患者はヘビースモーカーの中高年男性に多い。「喫煙者のうちCOPDを発祥するのは15〜20%。喫煙に何らかの遺伝要因が絡んで初めて病気が起きる」と、厚生労働省COPD研究班の主任研究者、松瀬健・横浜市大教授(呼吸器内科)は解説する。
これまでに「α1アンチトリプシン」というたんぱく質をつくる遺伝子の異常が発症につながることが分かっていた。だが、これだけではCOPDの全体像は説明できず、複数の遺伝子の関与が疑われている。
問題はこうした病変が進行性で、発症すると元の状態には戻らないこと。それだけに、早く症状に気付き、禁煙の徹底と治療で悪化を遅らせることが重要だが、「大半の患者はせきやたんの初期症状では受診しない。体を動かした際の息切れが出始めて、受診したときには、既に肺機能がかなり低下している。」と松瀬教授。
認識の低い医師が高齢者の息切れを「年齢のせい」で済ませたり、肺炎やぜんそくなどと誤認したりするケースもある。正確な診断には、スパイロメーターという機械のの肺機能検査が極めて有効だ。しかし、厚労相研究班が、ある地域で内科の病院・診療所で調べたところ、機械の普及率はわずか42%。診断と治療の方法を示した日本呼吸器学会のガイドラインの認知度も36%にとどまるなど、課題は多い。
喫煙率が高い日本は、高齢化で患者が増え続ける恐れがある。松瀬教授は「健診の場にスパイロメーターを普及させ、喫煙者だけでも検査すれば早期発見につながる。遺伝子解析が進めば、COPDになりやすい人を探し、禁煙指導で発症を予防することも可能になる」と話している。
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