夏の旅行シーズンがやってきた。旅は心身をリラックスさせる一方で、慣れない環境が疲労や体調不良を招くことも。このほど東京で「旅と健康シンポジウム」が開催され、旅の効果を科学的に研究し、病気の予防も目指す旅行医学が注目された
注目集まる旅行医学
「旅行は心身を休ませ、免疫力を高める効果がある」。田中佑子・東京理科大大諏訪短大教授(心理学)らが、東京から九州の湯布院や阿蘇、雲仙、長崎などを回る2泊3日ツアーの参加者を分析したところ、こんな結果が出た。男女17人の血液、尿、だ液、脳波などを旅行前、旅行中、帰宅後にそれぞれ採取、測定。心理状態を調べる質問用紙も旅行前、中、後に記入してもらった。
脳波では脳の活動を示す脳電位が旅行中に低くなる一方で、リラックスした状態の時にでるアルファ波に比率が増加していた。生理的には免疫力を強め、がん細胞の増殖を抑えるとされる「NK細胞」の活性が旅行中に高まり、細胞を傷つける活性酸素を抑える機能も上昇していた。
ストレスを感じて分泌されるアドレナリンなどの体内物質が全体的に減少。心理状態でも「悩み」「怒り」「いらいら」などが旅行中から帰宅後まで減り、幸福感が増加した。田中教授は「旅行は心身を活性化させるよりも、いやす効果がある。あまり旅行しない人ほど効果は大きかった」と分析する。
ツアーは、日本旅行業協会の「旅と健康」調査プロジェクトの第一回で参加者を一般募集し三月に実施。旅行者の本格的な生理学的調査は国内初という。調査結果について森昭三・筑波大名誉教授(健康教育学)は「今回は旅のプラス面が確認された。今後、海外や長期の旅行ではどうか、添乗員の有無による変化などを調べる必要がある」と指摘した。
旅行医学が欧米で1970年代から盛んに研究されている。国内では関心が薄かったが、エコノミークラス症候群の報道などで注目されるようになった。長時間、同じ姿勢でいると静脈の血流が滞り、血栓が出来て肺の血管に詰まるのが同症候群だ。防ぐには、足の運動や、適度な水分の摂取が重要だ。
国際旅行医学会員の篠塚規医師は「つい最近まで、長時間のフライト前は水分を控えるよう勧める旅行業者もいた。高齢者の旅行者が増える中で、正確な旅行医学の情報が求められている」と話す。
日本人の同症候群の報告例では、中高年の女性が多く、窓側や真ん中の座席が通路側席より多いことが知られている。引っ込み思案の中高年女性が水を控え、座席を立つのを遠慮していれば危険要因が増える。日本旅行業協会は今後、研究者や旅行会社などと連携し、日本人旅行者が旅先でどんな健康障害を起こしているかの実態を調べ、データベースを作って公開していく計画だ。
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